世界一眺めの悪いホテルの博物館で見たもの:パレスチナ自治区民の苦しみ
今回のイスラエル・パレスチナ旅行で一番衝撃を受けたのが、「世界一眺めの悪いホテル」の博物館の展示だった。
世界一眺めの悪いホテル The walled off hotel(英語サイト)
イスラエルとパレスチナ自治区を巡る争いの歴史と現状を、パレスチナ側の視点で分かりやすく解説している。とりわけ衝撃的だった展示の内容を写真や動画に収めてきた。
①1枚目:貯水タンク
②2枚目:空爆を知らせる電話
④4枚目:分離された道
⑤おまけ:世界一眺めの悪いホテルの博物館(動画)
------------------------------------
①1枚目:貯水タンク
説明の和訳
「パレスチナ自治区民の家かどうかは屋根の上の貯水タンクで分かる。通常、パレスチナ自治区民は最大30日程度の断水に備えて、貯水タンクを持っている。これらのタンクは数日に必要な2㎥の水を保存できる。
タンクは金属ではなくプラスチック製だ。プラスチックは、暇を持て余したイスラエル兵がタンクを銃で撃って穴を開けても簡単に修理できる。」
最大30日の断水というのは衝撃的だ。イスラエル側であれば水道が完備されており、日本と同じくそのまま飲むことができる。
そして何より、イスラエル兵がタンクを撃ってしまうというのが、イスラエル側のモラルの低さを物語っている。
②2枚目:空爆を知らせる電話
壁に設置された電話が鳴っている。受話器を取ると、「あなたの家はあと5分で爆破されます。今すぐ出てください。いいですか、今すぐ出てください。」と言って切れる。横には瓦礫になった住居の展示。実際に現場で起こっていることなのだろう。
それぞれの家には家族がいる。大切な物もたくさん保管されている。それを一方的に5分で爆破するなんて…。これで家を失った多くの人々を思うと涙が出そうになった。
左のプレート和訳
「人々はきちんと試験された物を買うのが好きだ。イスラエルが武器を売るとき、それは試験され、使用されたものだ...イスラエルはそれで何十億ドルも得ている。」
ー Binyamin Ben Eliezer, 元イスラエル経済大臣, 2003年
右のプレート和訳
「15万のイスラエルの家庭が、軍需産業に依存している。軍需産業は、私たち(イスラエル)の経済政策で中心的な役割を果たしている。」
- Ehud Barak, 元イスラエル防衛大臣, 2013年
イスラエルにはインテルといった半導体メーカーが進出している。また、ベンチャー企業も多い。ここで開発された技術は最新の兵器に利用されるのだろう。そして、その武器を使ってパレスチナ自治区が攻撃されてしまうのだろう。
④4枚目:分けられた道
説明の和訳
「イスラエル人限定の『バイパス』。下の舗装されていない道がパレスチナ自治区民用だ。トンネルの橋はイスラエル側が管理している方にある。トンネルの周りの丘や橋がある谷は、パレスチナ自治区民の管理下の土地だ。」
⑤おまけ:世界一眺めの悪いホテルの博物館(動画)
最後の展示室の様子を30秒ほど撮影。雰囲気が伝わると嬉しいです。
-----------------------------
イスラエル側にいると、先進国っぷりを感じられ、治安もよく安心して過ごすことができる。しかし、その安心はパレスチナ自治区を排除し、犠牲にすることでもたらされていることを感じられた。
エルサレムからパレスチナへの道
日本のニュースではガザ地区とイスラエルの戦闘が目立ってしまうので、パレスチナ自治区というと銃弾が飛び交う戦場のイメージになってしまうようだ。
パレスチナ自治区の中でもヨルダン川西岸地区は治安が安定しており、旅行者でも行くことができる。
かく言う私も、それまでパレスチナ自治区について詳しく知らなかった。
下調べをする中で、イエス・キリストの誕生の地であるベツレヘムはパレスチナ自治区にあり行きやすいと知ったことから行ってみることにした。
エルサレム市内からベツレヘムに向かうため、アラブバスに乗った。
バスの窓から写真を取ろうとすると、時々有刺鉄線が映り込んでしまう。
上手く取れないなー邪魔な有刺鉄線だ、と呑気に思っていたのだが、これこそがイスラエルとパレスチナ自治区を分断するものだった。
バスと宗教
日本では考えられないが、エルサレムでは宗教によって居住区が分かれている。各居住区を跨いで移動するのは全く問題ないのだが、居住区ごとに違いが大きく、交通機関まで異なる。
旅行者がイスラエル側で利用するのはユダヤ系の交通機関になる。空港からエルサレムへバスが通っており、エルサレム市内にも路面電車、バスがある。行先表示はヘブライ語、聞こえてくるのもヘブライ語、乗っている人々は所謂白人が多い。SuicaのようなICカードで乗車でき、綺麗で使いやすい。
一方、アラブ人居住区に入ると、アラブ系のバスが走っている。その名もアラブバス。パレスチナ自治区へは、同じイスラム教徒のアラブ人が運営するアラブバスを使って行く。
なお、ユダヤ教系のバスはエルサレムの街中を走っているが、パレスチナ自治区行きは一本もない。バス路線から「パレスチナなんて認めない」というユダヤ教徒の考えを感じ取ってしまった。
アラブバスのバスターミナルは、エルサレム旧市街の北側にある。バスに乗ると、客は全員アラブ系だった。アジア人は私だけ。スカーフをしていない女性も私だけ。ホテルから旧市街に来るまでのバスはユダヤ系のバスで白人だらけだったので、バスを乗り換えるだけで別の国に来たような感じを受けた。古い観光バスのような車体を使っており、ボロボロだった。
この国には交わるという発想がないんだろうか。
少なくともイスラエル国内であれば、ユダヤ系・アラブ系の両方が使いやすい交通機関があってもいいと思う。しかし、ユダヤ系とアラブ系の格差は一目瞭然で、ユダヤ系の交通機関の方が圧倒的にお金がかかっている。おそらくユダヤ系とアラブ系ではお金の出所(政府か企業。詳細不明。)が違い、資金力のあるユダヤ系の方が新しい電車やバスを揃えられるのだろう。このようにユダヤ偏重となっているところに、宗教的な分断と、解決の難しさを感じた。
イスラエル・パレスチナ旅行の旅程
現代ではインターネットが発達し、旅行の下調べをしっかりできるようになった分、旅先での驚きは少なくなったような気がする。インスタグラムを開けばリアルより美しい写真が見つかり、下手したら現実にがっかりする。
しかし、今回のイスラエル・パレスチナの旅は、日本ではまだマイナーであり、情報が得にくかった分、現地では驚きの連続だった。
イスラエルの国力、各宗教信仰者のアイデンティティの強さ、パレスチナ自治区の壁の不気味さ、イスラエルの入植政策、イスラエル側との経済格差など、日本にいると分からない多くのことを発見できた。
旅行の日程は以下の通り。
2019/3/3
イスラエル旧市街
・嘆きの壁
・岩のドーム
・聖墳墓教会
2019/3/4
パレスチナ自治区のベツレヘムへ
・生誕教会
・ミルクグロット
・Palestine heritage center
・分離壁
・世界一眺めの悪いホテル、ミュージアム
・バンクシーアート
・アイーダ難民キャンプ
・夜、グラフィティツアーに参加
2019/3/6
イェリコへ
・誘惑の山、修道院
・イェリコ旧市街
・オリーブの木
・ヒシャーム宮殿
2019/3/7
ツアーでヨルダン ペトラ遺跡へ